【ネタバレ含む】ユアストーリーを見てしまった【絶対に許さない】
ドラゴンクエスト ユア・ストーリーを見てきた。
今更説明するまでもないとは思うが、国民的RPGシリーズの中でも屈指の人気を誇る5のフルCG映画である。
とりあえずまず問いたい。
制作陣は本当にこれが面白いと思って世に出したのか?
ドラクエ5と言えば私が小学生のころに初めてプレイしたRPGだった。
発売からだいぶ時間が経っていたとはいえ、当時は今のような攻略サイトも掲示板もなくて、攻略本を買えるようなお小遣いもなくて、今のように当たり前に各家庭テレビが何台もあったわけでもないから、一日にプレイできる時間も限られていて。
「どこまで進んだ?」「モンスター何連れてる?」「どっちと結婚した?」「ブオーン強くね?」などと休み時間に交わすクラスメイトとの会話が唯一の情報交換の場だった。
親の規制が緩かったり長時間のプレイが許されてたりでストーリーを進めるのが早い子や、ダンジョンを進めるのが得意な子はそれだけでクラスのブレーンになれた。
モンスターや武器を自由帳にずっと描いている絵の上手な子にねだってイラストを描いてもらったりもした。
フローラ派を金の亡者人でなし呼ばわりして本気の喧嘩になったこともあった。
今でも顔を合わせる度に酒を飲みながらビアンカフローラ論争を繰り広げ、最終的に「デボラもありだよね!」なんて結論で無理やり終わらせるのだ。
そうやって形成されていったコミュニティがあった。
PS2リメイク版もDS版もスマホ版も買った。
何度でもパパスの最期に胸を締め付けられ、何度でもゲマへの復讐を胸に誓い、何度でも結婚相手に悩み、何度でもブオーンに苦戦し(リメイクの度に弱体化してる気はするけど)何度でもはぐりんを仲間にしようとして夜更かしをし、何度やってもラスボスの影が薄くて名前をど忘れしてしまう。
それが、私がドラクエ5とともに歩んできた人生である。
今回の映画化にあたり、多少の解釈違いが生じるのも仕方のないことだとは思っていた。
そもそもドラクエというシリーズは主人公が一言も言葉を発さないので、主人公の性格や他のキャラクターとの会話などは個人の想像で補完すべき部分が多く、だからこそ主人公=自分という没入感を得られた。
プレイヤーの一人ひとりが主人公で、プレイヤーの数だけの『ドラクエ5』があるものだ。
だから。
炎上の気配は感じていたけれど、あれだけのビッグタイトルだからそりゃ賛否両論あるとは思っていた。なんとは言ってもドラクエ5だもの。
しかし私の大好きなドラクエ5を映像化するのだから、普通の出来では納得してやらないどころか酷評だってしてやるぞ、だって、ドラクエで、しかも5なんだもの。
ドラクエ5を原作としている時点である程度の出来であることは間違いなく、それなりに楽しめるものだろうと信じていた。
世間一般である程度の評価を得ることは大前提として、個人的に気になった部分を羅列して「やっぱ懐古厨だから思い出補正が最強なんだわ映画としては悪くなかったけどね」なとと評論してやるつもりで観に行った。
以下、まずは原作との相違点、私の個人的な違和感・解釈違いを羅列したものである。
※ネタバレを含みます。
・パパスと主人公の旅の目的が最初から視聴者には明確です!攫われたママンと勇者探してます!
・幼少期は超特急でダイジェストにてお送りします!10分で終わります!
・サンタローズ?アルカパ?何それパパスの家が雪山にぽつんと一軒あるだけで~す
・シレーヌ城の冒険ももちろんダイジェストでお送りします!
・ベラとの冒険?ありませんでした!
・ラインハットは関所しかありません!
・↑なので権力争いもありません!
・↑じゃあヘンリーは攫われる必要なくない?
・10年一緒に奴隷やってたはずの主人公はずっとヘンリーの子分だったらしくてずっと敬語です!
・マリア?オラクルベリー?他の街の数々?存在しませ~ん!
・リュカは今どきの若者なので今どきの若者らしい話し方です!「マジ?」とか言っちゃう
・ヘンリーが10年後もいけすかねぇ奴だ!一人称も「余」だ!
・なんか全体的に旅してる感皆無!
・ゲレゲレの走り方よく見たら躍動感皆無!
・スラリンのぷるぷる感足りないけどもしかしてガラス製か何かなの?
・ピエール?仲間になりませ~ん!
・指輪探し?ありませ~ん!ブオーン倒したらルドマン家の財産とフローラあげちゃう!
・主人公はバギマの一つ覚え
・フローラ可愛い!けどそうじゃねぇ!
・おいなんでビアンカの性格そうなった?!フローラ派の陰謀か?!?
・そもそもビアンカとリュカの関係性ってそんな感じなの?
・なんと!ブオーンが仲間になった!
・グランバニア?もちろんありませ~ん!
・生まれてくる息子は一人っ子です!!双子?なんのこと?
・神殿行くためにマスドラさんに乗せてもらいます!ブオーン空飛べるのに!
・↑マスドラさん変身できないらしいんで機械が守る妖精の国行ってオーブ取り戻します!
・↑ブオーン空飛べるのに!
・機械が妖精の国守ってたっていいだろ!今回はそういう設定なんだよ!!
・「瞳の色」ってやたら言うけど他の格好いい言い方思いつかなかったん?
・主人公がジャミとゴンズをワンパンで倒します!
・なんとなく全体的な街の印象がFF9っぽい
と、ここまでは良い。(良くない部分も多数あるが)
あれだけの膨大なストーリーを1時間半の映画に詰め込むのだから、カットされる話もあって当然だし幼少期が10分で終わるのも結婚前にブオーンを倒すのも尺の都合ならまぁ目を瞑れる。
原作の私の主人公は一見頼りないけど精悍な顔つきで優しい目をしていて、本当はこんなに頼りなくて優柔不断なわけではないのだけれど、それも仕方ない。
この制作陣にとっての主人公はこうであっただけだ。
前述したとおり、プレイヤー一人一人のドラクエ5があるのだ。
今回の主人公は私の主人公ではなく、監督や脚本の主人公なのだから。
そういった意味での『ユアストーリー』なのかもしれない。
思い出補正を越えられるとはハナから思っていないし、まぁ駆け足だけどこんなもんじゃない?
主人公のプロポーズにはきゅんとしたし、ビアンカもフローラもかわいいしCGもきれいだしね。
酷評してやろうと思っていたけれど、炎上するほど悪くは無い。
しかし。
ここから先、最大のネタバレを含みます。
これから見に行く予定の方は絶対に読まない方が良いです。
(むしろあんなもの見ない方が良いというのは置いておいて。)
最終決戦。
魔界の扉がついに開いてしまうその刹那。
あれだけ壮大なCGでぬるぬる動いていた画面全体が、主人公以外の時間が止まる。時間停止物同人誌によくあるアレ。
息子がぶん投げたはずの天空の剣とともに現れるフリーザ様みたいな奴。
あれ?ミルドラースってこんな奴だっけ?って思ってると、突然処理落ちバグみたいな絵面に。
主人公とフリーザ様以外すべてが停止した世界で、フリーザみたいな奴は次々とCGや背景をぶっ壊しはじめ、この世界の真実を教えてくれた。
ここから先時間にしたら10分くらい、私は舌打ちが止まらなかったし前の席何度も蹴りそうになった。
・実は私たちが今まで見せられてきた物語はなんと!この映画の真の主人公がプレイしている体感型ゲームへ進化を遂げたドラクエ5のVR世界の映像でした!劇中劇ってやつ!
・幼少期はプレイヤーによってスキップされたのでダイジェストでお送りしました!
・今目の前にいるのはミルドラースではなくこのゲームをぶっ壊すウイルスです!
そんで自己紹介を終えたウイルスが、私たちが今までリュカだと思っていた誰かも知らないプレイヤーに、この映画を見ている観客に笑顔を向けてのたまう。
「ゲームなんてやめていい加減大人になれよwwww」
この後、ゲームの世界は虚構だけどゲームをしていた時間は本物なんだぜ的なこと言って私たちがリュカだと思っていた誰かも知らないプレイヤーが覚醒して、実は今まで仲間のフリしてたけど本当はアンチウイルスシステムだったスラリンが急に山寺宏一の声で喋りだしてロトの剣みたいなやつでウイルス倒してやったぜこれでエンディングかな?っていって終わるのだが、もう正直全部どうでもいいよく覚えてないし。
これが同人誌や趣味での創作物であれば、こんな使い古された何の工夫もないメタ展開も笑い飛ばせたと思う。
しかしこれは、ドラゴンクエストの名を冠した公式映像作品なのである。
なんてことをしてくれたんだ。
私はドラクエ5の映画を見に来たはずだった。
ただノスタルジーに浸りたかっただけなのかもしれない。
でも、ドラクエ5の映画を見に来たのだ。
ドラクエ5をプレイする知らない誰かの映画を見に来たわけではない。
突如として突きつけられる『ドラクエ5をプレイする誰かの存在』。
浴びせられた暴言。
『いい歳してゲームとかやってる奴まじ引くわwww』『お前らが今まで見てきた奴、全部プログラムwww』『尊敬する父親も、悩んだ末に選んだ嫁も、頼もしい仲間も、可愛い子供も、全部全部偽物のプログラムwww』
要約するとこんな感じである。
こんな分かりきったことを、わざわざ金払ってそのゲームの世界観に浸りに来たユーザーに知らしめる必要はあったのか?
『ゲームを楽しんだ気持ちと時間は本物なんだウオオオオ』(うろ覚え)なんて、今更わざわざ言う必要はあったのか?
ドラクエ5と一緒に大人になってきた。
ドラクエ5が大好きで、ドラクエ5が好きな友達と仲良くなって、ドラクエ5を好きなままで大人になった。
しかし大好きなドラゴンクエストの名を冠する映像作品の中で、ドラゴンクエストとともに歩んだ人生を、その経験からなる今の自分を、それらを与えてくれた大切な作品を、使い古され何のひねりも工夫もない手法で踏みにじられたのだ。
恐らく作中で伝えたかったことがあるとすれば、主人公の「ゲームしていた時間は本物」とかそういうセリフなのだろうが、そんな陳腐な台詞はもうどうでもいいのだ。
ネタバレを踏まないように細心の注意を払い、忙しい合間を縫って劇場まで足を運び、代金を払い、気になる点は多々あれどそれなりに制作側に敬意を払って今ここに座っている大人たち全てを、そしてその人達がもつ歴史。
それら全てを嘲笑するような大人がこの映画をつくり、他の大人たちのGOサインによって公開となったわけだ。
大切にしまっておいた卒業アルバムを恩師の手で引きちぎられ糞を塗られて燃やされたような気分だった。
大好きなドラクエでこんな気持ちになるとは思わなかった。
この映画を見るまではただの一片の曇りもなくドラクエ5が大好きなままでいられたのにと思うと、本当に悔しくて悲しい。
大好きな作品をモチーフにして、ここまで不愉快なものが完成されてしまったことがなによりも悲しい。
ドラクエを愛して生きてきたからこそ、私と同じようにドラクエを愛する人には絶対に見てほしくない。
子供の頃にゲームを買ってもらえず、クラスメイトの輪に入れずにいじめられた子が大人になって復習のために作ったのではないかとすら思う。
監督、脚本、他、シナリオに関わるスタッフの方。
ここまでして印象に残りたかったのですか?
お望み通り、私は山崎貴の名前は絶対に忘れることはないと思います。
絶対に、絶対に許さない。